著:西尾勝彦 版元:七月堂 P132 新書変形判ソフトカバー 2023年10月刊
この時代にまだ残っていた、素朴で、なつかしいことば――
表題作は、大阪の書店で朗読会を開催したときに書き下ろされたもの。とてもその店主をよく表していると思う。
【内容】 *版元サイトより
この詩集はきっと、誰かにとって、ひと休みさせてくれるような、木洩れ日がきらめく木陰のような、そんな一冊になるのではないかと思いながら制作を進めてまいりました。
こうして形にすることができ、嬉しい気持ちでいっぱいです。
装画は前回の詩集『ふたりはひとり』につづき小川万莉子さんの描き下ろし作品です。場末にてひかる小さな明るみを表現してくださいました。
この詩集には、「場末」に生きる人たちやそんな人たちがつくる場所がたくさん登場いたします。
ほの暗いなかでしか見えないくらい、けれど確かに存在する、ちいさなやすらぎの灯のような一冊です。
ぜひお手にとってご覧ください。
【作品紹介】
駅
彼は
うすい背中のひとなので
職場から
誰よりもはやく
家に帰るみたいだ
いつも歩きなので
駅に着くころには
埃っぽい風のなかである
ちょっとうつむきかげんの
ふうわりとした顔つきで
行きと帰りでは
気持ちに
ほとんど変化がないみたいだ
夕暮れの
あわい光のなかを
彼は歩いている
うすい背中のひとは
駅近くの和菓子屋に
立ちよっている
病弱の妻に
若鮎を買って帰るらしい
がま口を開けて
一枚いちまい
小銭をかぞえている